キーンさんと鞆の浦

キーンさんが愛した鞆の浦~日本文学者ドナルド・キーンさんと鞆の浦の関係

あなたはドナルド・キーンさんを知っていますか?

ドナルド・キーンさん(以下、キーンさん)は、アメリカ出身の日本文学者です。長年、日本とアメリカを行き来し、日本文化研究の第一人者、日本文学の世界的権威として活躍。谷崎潤一郎、川端康成、三島由紀夫など数多くの日本文学作品を英語に翻訳し、世界に紹介しました。東日本大震災の翌年となる2012年には日本に移住し、日本国籍を取得。「鬼怒鳴門」(キーン・ドナルド)という漢字の名前とともに、正式に日本人となりました。2019年2月に亡くなるまで、生涯にわたって日本を愛したキーンさん。

キーンさんと鞆の浦

日本各地を訪れ、その美しさやすばらしさを書き記しているキーンさんが、ひときわ気に入っていたのが、瀬戸内海。なかでも鞆の浦に対しては特別な想いがあることを公言されており、その想いはいくつかのエッセイや記事としても残されています。

「日本の一番好きな場所はどこですか」という質問をよく受けます。60年前に留学した頃から様々な思い出がある京都と答えるが、今日、原稿を書こうとして、一度しか見たことのない小さな町の名を思い出した。

「鞆の浦」に私が訪れたのは20年ほど前。船に乗り、着いた場所が鞆の浦だった。鞆の浦の町から見た景色は、正に絶景だった。目前には瀬戸内海や島々、遠くに目をやれば四国の山が美しくそびえていた。そんな景色にうっとりした私は、世界に瀬戸内海ほど美しい海があるだろうか、とさえ思った。町も美しい。細い道を歩きながら、昔の日本の町はこうだったと嬉しく思った。建物のほとんどは和風建築で、所々にある洋風建築も決して目障りではない。この町を歩くと、ここは「明治村」「江戸村」のような立体的な博物館とは異なり、本物の伝統を守っている生きた町という実感が湧く。

この美しさを人々に伝えようと思ったが、私はためらわずにはいられなかった。もし宣伝を請け負えば、次に来る頃には観光客のために、コンビニエンス・ストアを始めとする雑多な店が建つのではないかと恐れた私は沈黙を守った。しかし、結局人々は鞆の浦を発見したようだ。

観光客よ、鞆の浦を見物する時は、車やバスに頼らず、自分の足で歩いて、玉のようなこの町を楽しんでいただけないだろうか。私はそう思う。

2010年1月31日読売新聞より

キーンさんが愛した古き良き港町の原風景

キーンさんは、記事の中で鞆の浦を「本物の伝統を守っている生きた町」と表現。自らが紹介することで観光客が増え、景観が壊れてしまうことを恐れるほどこの小さな港町を大切に思っていました。万葉の時代から続く古い町並み、瀬戸内海を望む絶景などの見所がたくさんある鞆の浦。キーンさんが伝えたかったこの町の本当の魅力は、今なお変わらない“暮らし”がそこに続いていることではないでしょうか。

路地を歩けば、360年以上の歴史を誇る保命酒の香りがふわりと漂い、常夜燈の周りでは人々が集う。町のそこかしこには魚売りのおかあさんたちが佇み、魚の干物が揺れています。港町ならではの暮らしが今なお息づいている鞆の浦。ここでは、キーンさんが愛した鞆の見所をいくつかご紹介します。鞆を訪れた際には、その飾らない日常にとけこむように過ごしてみてください。

  • 珠玉その1
    常夜灯

    常夜灯

    「常夜燈」「雁木」「波止」「焚場」「船番所」。江戸期の港湾設備がほぼ完全な状態で現存する国内唯一の港町ということから、日本遺産にも認定されています。だからこそ鞆の浦は全国的に見ても珍しく、日本の歴史を伝え残すための貴重な場所なのです。そして、今も昔も変わらず、鞆の浦のシンボルとして港に建つのが「常夜燈」。常夜灯とは灯台のことで、地元の人からは「とうろどう」という愛称で親しまれています。観光客が集まるスポットですが、とうろどうの周りでは地元の人たちが井戸端会議をする様子が朝に夕に見られます。

    ひろしま観光ナビ「常夜燈」

  • 珠玉その2
    福禅寺対潮楼

    福禅寺対潮楼

    鞆の浦観光で外すことのできない定番スポットのひとつ。福禅寺対潮楼からの眺望は、朝鮮通信使が「日東第一形勝」―対馬から江戸までの間で最も美しい―と称賛しました。高台にある座敷の向こうに広がるのは、一幅の絵のような絶景。穏やかな瀬戸内海、朱塗りの弁天堂が建つ弁天島、その背後にゆうゆうと横たわる仙酔島を眺めていると、思わず時が経つのを忘れてしまいそうです。

    ひろしま観光ナビ「福禅寺 対潮楼」

  • 珠玉その3
    迷路のような路地

    迷路のような路地

    鞆の町家は切妻造の平入が基本で、1間半〜2間という狭い間口の建物が多く連なっています。外壁を共有している建物も多く、かつては全国有数の過密都市でした。迷路のような路地を歩けば、サイコロのような模様が描かれたなまこ壁やパッチワークのような石垣、船底板を再利用した壁などを見ることができます。あえて大通りではなく、ノスタルジックな路地裏を歩いてみてください。

  • 珠玉その4

    港町の暮らし

    町かどや防波堤には、漁師が朝とってきた魚をおかあさんたちがさばき、リヤカーに並べた魚屋さんが点在し、軒下にはサヨリなどの魚が潮風に揺れる。単なる観光地ではなく、今も地元の人たちが暮らす町だからこそ、港町ならではの風情が感じられます。路地を歩けば当たり前のようにあいさつを交わし合い、地図を片手に迷っていれば声をかけてくれることも。人情味あふれる地元の人たちとのふれあいも、楽しみのひとつです。

  • 珠玉その5

    いろは丸展示館

    江戸時代の蔵をそのまま使用したこの展示館では、幕末の偉人坂本龍馬が乗り、そして鞆の沖で沈没した「いろは丸」の一部を引きあげ展示しています。いろは丸に関する資料はもちろんですが、建物の太い梁などその堂々たる造りも見どころの一つです。精巧な龍馬人形が佇む龍馬の隠れ部屋を再現したコーナーも人気です。

    ひろしま観光ナビ「いろは丸展示館」

  • 珠玉その6

    保命酒屋

    江戸時代(1659年)から鞆の地で造られている伝統の薬味酒「保命酒(ほうめいしゅ)」を製造販売するお店が今も鞆の町には残っています。福山藩の幕府への高級献上品として全国的に有名になり、多くの歴史上の人物(徳川慶喜、ペリー提督、高杉晋作などなど)も飲んだ保命酒を、ぜひ鞆の空気を感じながら飲んでみてください。

    保命酒について

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